電通編 – TVCMの技法9選

電通インターンの過去問では、「TVCMを考える」問題がよく出題されています。

ここでは、STEP1~STEP4までを考えたうえで、TVCMを上手く形にするための9つのTVCMの技法をご紹介します。

技法1:「びっくりさせる要素」と「納得させる要素」を入れる

名作・傑作といわれるような優れたCMには、必ず「びっくりさせる要素」もしくは「納得させる要素」が含まれています。
「驚き」や「納得」のあるものに人々はココロを動かされます。

(1)「びっくりさせる要素」のつくりかた
⇒CMストーリーの中に、「対立」「矛盾」を入れることで、驚きを作り出すことができます。

(2)「納得させる要素」のつくりかた
⇒できるだけ、対象の商品・サービスと関連性がないように思える表現を用いて、結論で商品・サービスに戻ってくる構成にします。
視聴者のココロの動きとして、「ああ。こういうことを伝えたいために、これほどの表現が必要だったのか」というふうに構造的に理解されるのが理想です。

「びっくりさせる要素」と「納得させる要素」を含んだCM事例

(1)「対立」「矛盾」のあるCM事例
①ロト7(妻夫木聡 vs 柳葉敏郎 編)
⇒宝くじを否定していた上司がロト7を買っていたという「矛盾」+上司対部下の「対立」

②中央酪農会議(牛乳に相談だ。シリーズ)
⇒高校教師と、クラスの生徒との「対立」

③カロリーメイト(ゼリー vs ブロック)
⇒カロリーメイトゼリーとカロリーメイトブロックとの「対立」

(2)「納得させる要素」のあるCM事例

①銀のさら(CM撮影の秘密編)
⇒CM撮影の秘密を紹介していく流れで、最後に「子どもの笑顔」は、銀のさらで作られているという結論にすることで、腑に落ちる内容になっています。

②資生堂(メーク女子高生の秘密)
⇒女子高生がいる教室の映像を流していって、終盤で一気に逆再生。実は、女子高生だと思っていたのは、全員メイクした男子だった。という結論にすることで、
メイクの大切さが腑に落ちる内容になっています。

③味の素スタジアム(ハスキーな女たち)
⇒新しい街に引っ越してきた男。きれいな女性が多く喜んでいる様子。ところが、彼女たちは、みんな声がハスキー。それは、味スタで声を張り上げていることが原因だった。という結論。

技法2:起承転結で作って、順番を入れ替える

CMストーリーでは、結末に大きな意外性を含んでいない限り、面白さを生み出すことができません。
起承転結でつくったストーリーの順番を一部入れ替えるだけで、同じ内容でも面白さをつくることができます。

起承転結で作って順番を入れ替えたCM事例

XYLISH(息をキレイにするガムのcm)

◆起承転結型の場合
1.ダンス会場で待つ二人、女性が男性の息を気にしている。
2.いよいよ本番。女性は、たまらずのけぞりながら変な姿勢で踊り続ける。
3.『息をキレイに XYLISH』

◆順番を入替えた場合
1.ダンス会場で踊る二人。何やら女性の踊り方が変。のけぞっている。
2.相当無理な姿勢のまま踊り続ける。
3.『息をキレイに XYLISH』

技法3:空間で考える・観客だけが知る未来をつくる

映像を考える場合、世界の奥行き要素を入れることが、面白さにつながります。
このときに、「観客だけが知っている未来」を作ることで、観客は、知っている事実に対して「責任」を渡された感覚になります。
その責任感が、観客のココロの葛藤や想像を掻き立てることで、面白さにつながります。

空間で考える事例・観客だけが知っている未来を作っている事例

◆シーンに奥行きを加える事例
①一人の女性が立っている。手前に男性がいる。
男は女性に告白し、女性は涙ぐんでいる。
   ↓ 壁の背後に女性を一人加える

②「背後の女性は、この男性が好きなんだな。」
(話の展開に興味を持ち始める)
   ↓  さらに、背後の女性に包丁を持たせる

③「もしかして、この女性を殺してしまうのかな。」
(スリリングな展開を想像)
   ↓  さらに、告白された女性に結婚指輪をつける

④「プロポーズされた最高に幸せなタイミングの直後に不幸なことが置きてしまうなんて。」
(スリリングさの増幅)

◆「観客だけが知っている未来」を作っている事例
・誰が犯人かを知っている状況で、物語が進む。
・交通事故で死ぬことがわかっている中で、進行する恋愛。
・不治の病であることを、観客と家族が知り、それを知らない本人が、将来のことを楽しそうに話している。

技法4:ズレをひとつだけ入れる

常識的な価値観や出来事のうち、一つの要素だけを入れ替えます。
ただし、ズレの内容から「作りてのはしゃぎ」が見えてしまうと受け手は冷めるため、ずらす内容は、バランスを考慮します。

ズレをつくる事例

◆どうしてもお菓子を食べたくなるシーンをつくるとき、どのような設定が最も面白いか。

●良い設定例
⇒「国の命運を左右するような会議 」の設定。

●悪い設定例
⇒「宇宙人に攻められているシチュエーション」

お菓子を食べたくなるシーンの中で、ずらす要素としては、「どこでお菓子を食べるか」という部分。
つまり、「絶対にお菓子を食べてはいけない状況」であるほど面白さを増幅させることができます。
しかし、「宇宙人に攻められている場面」など、非現実的なシチュエーションにしてしまうと、
この場面の肝である「シリアスさ」が抜け落ちてしまい、受け手は冷めてしまうので、バランス感覚が大切です。

技法5:笑いを入れる

笑いの種類は、大きく分けて以下の5つ。(4)を基本として、他の(1)~(5)を組み合わせることで、
笑いのレパートリーが広がります。
ただし、作り手側の意図が見えると受け手はつまらなくなるので、徹底的に「嘘」を洗い出す必要があります。

◆笑いの種類
(1)言葉遊びの笑い
Ex)ダジャレ、思い違い・聞き間違い

(2)即物的な笑い
Ex)転んだり、どついたり、変顔など

(3)キャラクターによる笑い
Ex)痴態(ばかげた振る舞い)、キャラクターなど

(4)関係による笑い
ex)ケーキだと思っていたものが爆弾だった。爆弾をケーキだと思って扱っていた。

(5)不条理の笑い
Ex)死体を前に、お茶漬けを食べるなど

(1)~(5)の笑いを取り入れたCMの事例

①日清カップヌードル(『公用語を英語に』編)
⇒戦国時代にも関わらず「俺、TOEIC300点なのに」「俺なんて英検3級だぜ」と発言する「不条理の笑い」と、
映像自体は命をかけた戦争というシリアスな状況で「英語の意味がわからない」という「関係の笑い」を組み合わせることで面白さを生み出しています。

②PS4( 『山田孝之のすごい駄々』篇)
⇒大人の山田考之がゲーム店で駄々をこねて、それを子供がなだめるという「不条理の笑い」と、山田孝之が激しく駄々をこねたり、
ゲームを手にして喜ぶ姿の「即物的な笑い」を組み合わせることで、面白さを生み出しています。

技法6:物語を説明しない

物語を進められるのは、登場人物だけです。
物語の設定や進行を説明するために、セリフや映像を使うと、作り手の意図が透けて見えてしまい、
物語がチープなものになってしまいます。そのため、「セリフ」と「映像」は、常に別のことをするように意識しましょう。

(1)~(5)の笑いを取り入れたCMの事例

◆「セリフ」と「映像」で別のことをしている例

①男が一人で応接間にいるシーン
A:セリフと映像が同じになっている例
⇒男「くそう、緊張してきた」

B:セリフと映像が別々になっている例
⇒煙草に火をつける。が、灰皿には既に火のついた煙草がある。

②二人の男女の別れ際のシーン
A:セリフと映像がおなじになっている例
⇒別れ際に女が男にいう。「淋しい」

B:セリフと映像が別々になっている例
⇒別れ際に女が男にいう。「こんどいつ会える?」

技法7:オムニバスを使わない

「オムニバス」とは、繰り返しのこと。同じようなシーンをつないで見せて、感動的な音楽を当て込むようなCMは、
企画の放棄です。色んなシーンを当て込むことで、一見、誰もが共感できるように感じますが、
表面的な共感は、人のココロに印象を残しません。

オムニバスCMの事例

◆オムニバスCM例と改善策

・オムニバスCMの例
(よく見る、保険会社のいい感じのCM)

※センチメンタルな音楽♪~
①肩を抱く男女
②孫を頑張って抱っこする祖父
③大きくなったお腹の中で赤ちゃんが動く
④はじめてひとり歩きする我が子
⑤街の風景にいい感じのコピー「たいせつなものを大切にしたい ◯◯保険」
⇒よく言われる「大切にしたい人・こと」を繋げて一つの映像に仕上げています。これでは、既視感のある、ありきたりな表現になってしまいます。

ただし、上記のCMでも、切り口を変えることで、個人に深い共感を与えられるようになります。

例えば、「④はじめてひとり歩きする我が子」を切り取って拡大すると、物語化しはじめて、ありがちなものから逃げることができます。

・オムニバスCMの改善策
①赤ちゃんが転んで大泣き。まだ歩けない。
②パパが助けに行こうとすると、ママがそれをとめる。
③赤ちゃんは何度もトライ。
④そして失敗する。
⑤でも頑張る。
⑥ただ見守るパパとママ。
⑦見守るパパとママの横に「たいせつなものを大切にしたい ◯◯保険」
⇒「はじめてひとり歩きする我が子」をピックアップすることで、その周辺の景色(父、母のやり取り)を描けるようになり、
個人に深い共感を与えるCMに仕上がります。

技法8:主人公にプチ不幸を与える

そもそも広告は、自画自賛するものだと、誰もが認識しています。
そのため、「商品・サービスのお陰で幸福になる」というストーリーでは、ただの自画自賛として受け取られてしまいます。
そこで、「主人公が、商品・サービスの良さを活かすも、最終的にプチ不幸になる」というオチを作ることで、
単なる自画自賛から逃れることができます。

主人公にプチ不幸を与える例

・自画自賛パターン
⇒速いバイクだから、遅刻して家を出ても間に合った。

・プチ不幸パターン
⇒速すぎるために、時間を持て余してしまい、ちょっと寄り道すると、寄り道した先で財布を落す。

◆主人公にプチ不幸が訪れるCM例
①KDDI(「こいつの名前教えて!」編)
⇒ 写メールの便利さを伝えるCMだが、最後に「読めない」というプチ不幸を持ってくることで、自画自賛から逃れている。

②メルカリ(「本当は欲しかった」編)
⇒主人公が、お気に入りのTシャツを着ていたが、先輩にダサいと言われたので、メルカリに出品。次の日に、先輩が同じTシャツを着ていたというオチ。

技法9:正論は、他のポジティブな表現と組み合わせて伝える

「環境を大切にする」「煙草はポイ捨てしない」などの「正論」は、正論であるがゆえに、
ストレートに伝えると、受け手は窮屈に感じてしまいます。
正論を伝える場合は、「かっこよさ」「かわいさ」「面白さ」と組み合わせることで、窮屈さを感じることなく、受け取ることができます。

正論を、他のポジティブな表現と組み合わせたCM事例

①キンチョール(「お前の話はつまらん」編)
⇒キンチョールが環境に配慮して水性になったことを伝えるCMですが、大滝秀治に「お前の話はつまらん」と否定的な発言をさせることで、
「面白さ」と組み合わせた表現になっています。

②大阪ガス(『たのむよ、人間』編)
⇒環境保護をテーマにしたCM。人間が環境破壊を進めていることに対して、動物たちが素直な意見を人間にぶつけていきます。動物たちの素直さ、
けなげさが「感動・共感」を生み出すことで、窮屈さから逃れています。