普段TVでよく目にするテレビコマーシャル(TVCM)。このTVCMをはじめとしたコマーシャルや広告は一体どのように作られているのでしょうか?広告代理店や広告業界を志望する方の中には、「CM制作に携わってみたい!」と思う人は多いのではないでしょうか?
今回はまずCMの基礎として、CMの定義や歴史などについて詳しく解説していきます。
1.CMとは何か
そもそも「CM」とは何の略なのでしょうか?毎日見ているにも関わらず、CMの正式名称を知っている人は少ないかもしれません。ただし、広告代理店を志望する人であれば、CMの正式名を是非知っておいていただきたいです。
CMとは和製英語で「Commercial Message」の略です。つまり直訳すれば「商業的なメッセージ」と言う、なんとも味気ない意味になってしまいます。
しかし、CMは戦後日本の高度成長と共に大いに発展、成長し、「CM文化」として社会にも評価されるようになりました。実際、皆さんの中にはついつい口ずさんでしまうCMソングや、ちょっと好きなCMがあったりしませんか?
CMは常に斬新な映像を作り出し、言葉(コピー)や音楽もまた常に社会の最先端にあって、より多くの人たちにアピールする、ド国のマスコミュニケーションの表現手法を創り出しました。
CMのフレーズが流行語になったり、CMディレクターが映画監督を務めたり、逆に映画監督がCMを演出したり、有名タレントがCMに出演したり、CMに出演したことをきっかけに有名になったりと、CMが現在の社会に与えるインパクトは未だに大きいものです。
ただし、先ほどCMの正式名称の部分でも触れた通り、本来CMは「商業的なメッセージ」のはずです。CMは企業やブランドのマーケティング活動の一環であって、決して独立した芸術作品ではないのです。広告主であるスポンサーの目的に沿って制作される広告著作物です。
つまり広告主の「何を知ってもらいたいか」を「誰に、広く、正確に伝えられるか」という点がCMのミッションなのです。
2.CMの歴史
ではCM、特にTVCMはいつ始まったのでしょうか?ここからはCMの歴史について解説していきます。
(1)CMの誕生
第2次世界大戦が終わり、その約8年後の1953年8月28日正午、NTV(日本テレビ)で「精工舎(現セイコー)の正午の時報」が流れました。これが日本におけるTVCMの第1号で、TVCMの歴史はここから始まりました。
それよりも2年前の1951年9月1日、大阪の新日本放送と名古屋の中部日本放送が開局し、ラジオCMはその時に始まりました。つまり日本のCMはまずラジオから始まったのです。
ちなみにラジオスポットCMの第1号はミニ・ドラマ形式の「スモカ歯磨き」でした。
大正時代以来、国営のNHKしか放送というものを知らなかった日本人にとって、民間放送のCMは衝撃的だったはずです。そこに、戦争が終わって新しい時代が始まるという社会の雰囲気を感じたのかもしれません。
そして1955年には現TBS(東京放送)、そして1959年には現テレビ朝日、フジテレビといったように次々とTV局が開局していきました。その後、民放局はこれらキーステーションのほかにも、各県やエリアで地方局を次々と開局し、TVCMも次々に流されていきました。
またTVは、力道山の活躍や皇太子ご成婚、そして東京オリンピックといったイベントをきっかけにさらに全国的に普及していきました。当時はモノクロ放送でしたが、昭和40年代に入ると徐々にカラー放送になり、TV普及に拍車が掛っていきました。
日本における民間放送の発展、成長は、マスコミュニケーションの発展、成長でもあり、CMの隆盛へつながっていきました。つまりCMは経済活動の大きな原動力にもなっていました。
(2)テレビ放送初期のCM
初期におけるTVCMは、テレビ自体がモノクロ(白黒)だったこともあり、当然モノクロで、内容もコマーシャルソングにアニメ調のものが主流でした。
例えば、現在でもサントリーのトリスに起用されているトリスおじさんはこの頃から登場しており、「トリスを飲んでハワイに行こう」というキャッチコピーで展開されていました。
(3)タレントCM全盛時代
日本のTVCMの特徴のひとつに、タレントを起用したCMがあります。有名人や外国の著名人に弱いという日本人の国民性がそのままCMにも受け継がれた感がありますが、この流れは現在でも変わりはありません。
例えば、アイドルだった郷ひろみや、昭和の歌姫・美空ひばりを起用したキンチョーCMや、現在でも石原軍団の渡哲也が出演する流れを作った石原裕次郎の松竹梅のCMがありました。
さらには日本だけでなく海外でも大スターだった三船敏郎を起用し、「男は黙ってサッポロビール」というキャッチコピーが空前の大ヒットとなったCMや、当時ホームラン世界記録を樹立した王貞治を起用した亀屋万年堂のナボナのCMなど枚挙にいとまがありません。
また、外国人タレントを起用した例としては、スポンサーの社名まで変えてしまった「マンダム」とは、もともとハリウッドスターのチャールス・ブロンソンが出演したCMなど、数え始めるとキリがないほどです。
(4)時代とともに変化するCM
「CMは社会を映す鏡」とはよく言われる言葉です。
その時代の社会情勢を表す言葉やキャッチコピーは、これまでTVCMから発信されてきました。
例えば、昭和39年の東京オリンピックをキッカケとした「行け行けドンドン」から、昭和44年の「オー、モーレツ!(コスモ石油CM)」、さらには「モーレツからビューティフルへ(富士ゼロックスCM)」、さらには「のんびり行こうよ(モービル石油CM)」、などはまさにその典型例です。
高度成長期には、CM撮影に海外ロケも多く、外国の大物タレントを起用し、CM制作の規模は国際的に、そして大規模に展開していきました。しかし、79年のオイルショック後は、大がかりな撮影を要するCMよりも、アイデア主体で合理的なCMも増え始めていきました。
松下電器産業(現パナソニック)の「電子頭脳毛布・ひよこの誕生」は、まさにこの流れを汲んだCMで、暖かい電気毛布を表すために毛布とひよこのみで表現された、シンプルでありながらも、アイデアに富んだものでした。
これらのCM作品は、現在でもカンヌ国際CMフェスティバルやIBA(International Broad-Casting Awards)など海外のCM賞を取り続けており、日本のCM作品の中でも世界に通用するレベルの作品となっています。
(5)多様な表現が可能となった現代
平成に入った1990年代となると、TVCM制作は一挙に「F to T」となっていきました。フィルムのオプティカル処理では考えられなかった表現技法が、テープ処理となると、難なく可能となっていきました。
また、映像をCG(コンピューターグラフィックス)処理したり、デジタル編集を行うことより、CMを手掛ける映像作家にも中島信也氏(当時東北新社)など新たな逸材が登場していきました。
中島信也氏は、当時開発されたばかりの最新機器であるデジタル映像機器やCGを駆使して、全く新しい映像表現の世界を開拓していきました。特に日清食品の「Hungry」シリーズは、カンヌ国際CMフェスティバルでグランプリを受賞し、CM表現の可能性を体現していきました。
(6)これからのCM
21世紀に入り、17年経過した現代では、TVというこれまでの主役だった媒体の他にも、インターネット・スマホなども広告媒体の主流にもなりつつあります。
家にあるテレビだけでなく、常時持ち歩くスマホが接触媒体として有力になりつつある現在、動画やネット上での広告展開も、これまでの形にとらわれないCMが求められています。
3.CMを取り巻く組織や団体
ここではCMを制作する広告代理店や制作会社だけでなく、CMに関連する組織や団体も見てみようと思います。
(1)ACC
1960年代、日本の商業放送を発展させるため、現・全日本シーエム放送連盟の前進である「CM合同研究会」が設立されました。
当時は日本広告主協会、日本広告業協会、放送広告代理店中央連盟、日本民間放送連盟の4団体で構成され、翌1961年には早くも第1回CMフェスティバルを開催しました。
CMのクオリティ向上と啓もうを推進するため、その後毎年1回「ACC全日本CMフェスティバル」を開催しています。授賞式には総務大臣も出席し、グランプリ(総務大臣賞)は大臣自ら授与されます。
CM関係者にとってこのCMコンクールで受賞することは一つの名誉と実績であり、大きな励みとなります。
(2)JAC
先ほどACCという団体はありますが、CM制作プロダクションの参加もなければ、「CMを良くしよう」という目的が達成できないのではないか、ということで1962年に制作会社の団体「日本コマーシャルフィルム製作者連盟(略称:JAC)」が設立され、すぐにACCに参加しました。
1978年、JACは「日本テレビコマーシャル制作者連盟」と名称変更し、1985年に社団法人となりました。
4.CMを流す広告媒体(メディア)
広告活動は、多種多様な媒体(メディア)を通じて伝達されますが、短期間に一定の広告情報を広く伝達する方法として、これまでは4マスが活用されてきました。
電波媒体は「タイムメディア」、印刷媒体は「スペースメディア」と言われています。なぜなら、電波媒体(テレビ・ラジオ)は時間軸によって表現され、印刷媒体(新聞・雑誌)は平面上に表現されるためです。
電波メディアのCMは、時間の流れに従って表現されるので、もう一度見たい、聴きたいと思っても、立ち止まってはくれません。それだけに一瞬のうちに何かを印象づけるテクニックが必要となります。
そこで、「また見たい、また聴きたい」と思わせる映像、耳に残る言葉(コピー)、音楽、SE(効果音)などを工夫してきました。たった15秒や30秒の時間に、CM制作者は全てを捧げることになります。
時間軸によるCM制作では、視覚や聴覚など、人間の感性に鋭く働きかける映像や音声を創り出すことが求められます。
印刷メディアの広告は「グラフィック・ドア」と呼ばれ、見たいところだけをじっくりと見ることができますし、何度も好きなだけ繰り返し読むことができる長所があります。それだけに高度なデザイン感覚と、優れた広告コピーが要求されます。
また、最近ではインターネットやスマホにおける広告も主流となり、ターゲットとする消費者を特定し、映像やバナー広告を見せることが可能となってきています。これは電波媒体のタイムメディアと、印刷媒体のスペースメディアの両方の特徴を併せ持っています。
テレビ・ラジオCMの種類
(1)番組CM
番組を提供するスポンサーとなった広告主となった広告主が、その番組に入れるCMとして、前コマ(前CM)、中コマ(中CM)、後コマ(後CM)があります。
また番組の時間の長さによってCMの合計秒数が定められています(30分番組は3分、60分番組は6分)。
番組CMの特徴は、番組の内容に合わせたCM(その番組の出演者を使ったCMなど)が放送できることや、30秒、60秒といった長い秒数のCMを流すことができます。
(2)スポットCM
番組と番組の教会にステーション・ブレーク(ステブレ)と呼ばれる局名を告知するための60秒程度の時間があります。民放局では、このステブレをスポットCMの時間として利用しています。スポットCMは15秒が中心ですが、最近ではステブレを失くして、番組視聴継続させることを狙う時間帯もあります。
「スポットCM」で知名度を上げて購買を喚起する。そして「タイムCM」で起業イメージを高揚させるというのがこれまでのTVCMの定石でしたが、最近ではインターネットやスマホの登場によって、タッチポイントの複雑化、多展開も重要となってきています。