私たちが耳にするラジオで流れているCMなども広告代理店が携わっている仕事の一つです。では具体的には広告代理店のラジオ担当はどんな仕事なのでしょうか?
結論から言うと、代理店のラジオ担当の仕事は、クライアントの広告要件に沿って、適切なラジオ番組と広告枠を選択することです。
ここでは広告代理店における媒体(メディア)としての「ラジオ」の特徴、ラジオ放送の種類、そしてラジオの広告枠、ラジオCMの広告料金なども含めて、代理店のラジオ担当の仕事内容について詳しく解説していきます。
目次
1.そもそも広告代理店における媒体(メディア)とは?
広告代理店といえばTVコマーシャルなどを手掛け非常に華やかなイメージがある一方で、(主に営業の仕事を指して)「激務」、「きつい仕事」というイメージが強い方も多くいるかと思います。当たり前のことですが、広告代理店の仕事は営業だけではありません。広告代理店の大きな役割は、①広告内容の制作、②広告の伝達ということです。そして広告を伝達する重要な手段として媒体(メディア)への掲載があります。
メディアには、「マスメディア(4マス)」と言われる新聞、テレビ、雑誌、ラジオに加えて、OOH(交通・屋外広告)や最近急拡大しているインターネット広告などがあります。今回は広告代理店における「ラジオ」というメディアに焦点を当て、ラジオの媒体としての特徴などを含めて仕事内容などを詳しく解説していきます。
2.代理店にとって「ラジオ」ってどんなメディア?
ラジオは未だに4大マスメディアとして広告媒体の一つですが、実際のラジオ広告はどのような種類や料金なのでしょうか?その疑問に答えるためにも、そもそも媒体としての「ラジオ」を詳しく紐解いていきましょう。
(1)メディアとしてのラジオの特徴
ラジオというメディアの特徴は、(a)パーソナル性、(b)双方向性、(c)ながら聴取性、という3つがあります。
(a)パーソナル性とは、番組や局によって対象の視聴者が明確なため、ターゲットを限定した広告展開に適している点があります。(b)双方向性とは、電話やメール、FAXなどによって聴取者参加型の番組(音楽リクエストやネタ投稿、深夜放送での聴取者との電話などの対話形式番組)が多い点で、しばしば聴取者の声が番組に反映されます。(c)ながら聴取性は、仕事、家事、勉強など何かをしながらでも番組を楽しめる点です。
現在これらの特性が実はインターネットの特徴に近いという事でも注目を集めています。すでに、スマホやパソコンでネットを楽しみながらラジオを聴く、メールやラジオ局のWebサイトへネタや意見、リクエスト等を送るなどの聴取形態も一般的となってきています。ラジオ局もネットとの親和性を活かして、「radiko」などのサービスも好評を得ています。
さらに注目されているのは、「リーセンシー」、「イメージャリー・トランスファー」という2つの広告効果です。リーセンシーとは、購買時点に最も近い時点での広告接触が最も購買に影響するという理論です。例えば、ある人がバターを買う目的でスーパーマーケットへ車で向かっている途中に、車のラジオから雪印のバナーの広告を聴くと、その人は雪印バターを思い出し、あるいは興味を持ち、到着したスーパーで雪印バターを買う可能性が高まるだろうという事です。
イメージャリー・トランスファーとは、テレビや新聞などリーチの広い他の媒体から発せられた広告メッセージを、ラジオ媒体を通して耳から聴くことで、その広告メッセージが再想起され、より強く記憶されることで、広告効果を高められるといった効果です。つまり目で見た広告を、耳で補完するというイメージです。
(2)ラジオ放送の種類
ラジオとひとことに言っても、放送に用いる周波数帯の違いから(1)AM放送、(2)FM放送、(3)短波放送の3つに分類されます。
①AM放送
中波帯のうち、535~1650kHzを用いた放送をAM放送といいます。代表的な例は、オールナイトニッポンでも有名なニッポン放送、午前中のご長寿番組だった大沢裕理のゆうゆうワイドで有名なTBSラジオ、西武ライオンズのラジオ中継でもお馴染みの文化放送などがAM放送です。AMはラジオ放送としての歴史が長く、現在でもラジオの主流を占めています。なお、放送に際して振幅変調(Amptitude Modulation)方式を用いているため、「AM放送」と呼ばれています。
②FM放送
超短波帯(30~300MHz)を用いた放送をFM放送といいます。代表的な例は、クリスペプラー「TOKIO HOT 100」でも有名なJ-WAVE、多彩なミュージシャンが登場する番組「SCHOOL OF MUSIC」が好評なTOKYO FMなどが挙げられます。雑音・混信に強く良質な音が得られるので、ここで挙げた例のように音楽放送に適しています。尚、放送に際して周波数変調(Frequency Modulation)方式を用いているため、FM放送と呼ばれています。
③短波放送
短波帯(6~30MHz)を用いた放送を短波放送といいます。短波は、電離層の反射によって遠距離まで伝搬するので、1局で全国をカバーすることができます。民間では「ラジオNIKKEI(旧ラジオたんぱ)」1局が放送を行っています。
AM放送局・FM放送局ともテレビと同じように、ネットワークを形成しています。具体的には、AM放送では「JRN(TBSラジオ系列)」、「NRN(文化放送およびニッポン放送系列)」、FM放送では「JFN(TOKYO-FM系列)」、「JFL(J-WAVEなど5社ネット)」などがあります。
AM局のネットワークは、テレビ局に比べて流動的で未分化の状態にあります。なぜならAM放送エリア性が強く、番組制作費も安く、さらにテレビ局との兼務経営が多く経営基盤が強固であることを背景に、各ローカル局での制作比率が高いことが原因となっています。逆にFM局ではネット番組を放送する比率が高くなっています。
ちなみにネットワークに属していない局を独立局と言い、例えば「FMヨコハマ」や「NACK5」、「BAY・FM」、「FM COCOLO」などがラジオの独立局です。
(3)ラジオのサーキュレーション
ラジオでは、サーキュレーションとして、放送エリア内の人口および世帯数を用います。AM局およびFM局では、基幹3地区(東京および東京隣接県、大阪、愛知)にある広域局を除き、放送エリアは1もしくは2県です。例えば、TBSラジオの放送エリアは、1都11県およびエリア内人口約4600万人です。
(参考:メディア・リサーチ・センター「月刊メディア・データ」より)
ラジオ放送の特徴として、家族全体ではなく、聴取者個人をオーディエンスとしていること、自動車を運転しながらの聴取が多いことなどから、エリア内の性別・年齢別人口や自動車保有台数なども考慮に入れる必要があるのです。
(4)ラジオ広告の種類
ラジオCMは、テレビ広告と同様に以下のような分類となっています。
①番組提供の有無
◆番組提供CM
・ネット番組提供
・ローカル番組提供
◆スポットCM
・ステーション・ブレーク
・パーティシペーディング
ラジオの場合、様々なスポット展開が可能となっています。例えば、生CM、時報スポット(正午や時間の区切り10~15秒前に入る時報付きCM)、コールサイン・スポット(各局のコールサイン・ジングル付きCM)、インフォマーシャル(局からのお知らせとして広告を伝える)などです。
②タイムクラスによる分類
CMは、放送する時間帯(タイムクラス)によっても分類されます。ラジオの場合、局によってタイムクラスの設定がかなり異なります。例えば、TBSや文化放送では全日ともA、B、Cの3クラスですが、ニッポン放送では金・土・日・休日にはH、Bの2クラス、それ以外の曜日にはA、Bの2クラスとなっています。ちなみに「ラジオNIKKEI」ではクラス分けを行っていません。
ラジオは、放送時間帯、番組によって聴取者層がはっきり分かれているため、CM出稿の再には聴取者と広告ターゲットとの適合に注意しなければなりません。例えば主に午前中~昼までは主婦層、夜~深夜帯は若年層というようにはっきり聴取者が分かれています。
③CMの長さによる分類
タイムでは、1本のCMの長さは20秒、30秒、40秒、60秒などが中心です。番組とその提供方法によっては、それ以上長いCMを放送することも可能です。
スポットでは、CMの長さは10秒、20秒がベースですが、5秒CMが可能な局もあります。また、J-WAVEは、120秒、180秒などの長いスポットの正規料金も設定しています。
(5)ラジオ広告の料金
ラジオ媒体の料金体系は、テレビ広告とよく似ています。主に、エリア内世帯数(あるいは人口)とタイムクラスによって正規料金が定められています。ただし、実際には聴取率そして各ラジオ局の営業力、需給関係などによって料金が決定されています。
①タイムの場合
TVCMと同様に、タイム出稿の場合、番組スポンサーは電波料と番組制作費を負担します。系列局にネットする場合には、さらにネット料金も負担します。
実際の商談にあたっては需給関係も強く影響します。例えば、ラジオ媒体、特にAM局の主力番組である野球ナイター中継を提供する場合には全国フルネット、週1回提供(6社共同提供)、20秒CM×10本で、料金は大体月額2,000~5,000万程度です。
②スポットの場合
ラジオスポットの場合、季節による単価の変動はテレビほど大きくありません。一方で、広告ボリューム(出稿量)に伴う割引が受けられるため、出稿量による変動が大きくなります。
料金は出稿する本数によって計算されます。20秒CM1本あたりの単価は、在京キー局(ニッポン放送、TBS、文化放送、TOKYO-FM)でおよそ8~15万程度です。
3.代理店における媒体部・ラジオ担当の仕事
ではここから広告代理店における媒体部のラジオ担当が行う仕事内容について具体的に解説します。代理店のラジオ担当に配属された場合、下記のような手順で新聞広告を掲載していきます。
(1)タイムの場合
ラジオでは、テレビに比べて提供スポンサーの意向を反映した番組制作が容易です。なぜならば単独提供が多いからです。そのため、枠取りの確認および放送申し込みを行うと同時に、スポンサーの意向を汲んだうえでラジオ局と企画および制作の打合せを行いながら、素材搬入を進めていきます。
(2)スポットの場合
スポット発注は、放送の1か月前くらいまでに行う必要があります。次に、広告素材を放送日および土日を除く3~4日前までに局に搬入します。また複数のCM素材がある場合にはそのローテーションを指示します。最後に局から放送したことを証明する放送確認書を受け取り、一連のスポット出稿作業が完了します。
4.ラジオ媒体の未来
ラジオは4大マスメディアと呼ばれるTV、新聞、雑誌、ラジオの中で最も売上高が低く、1970~80年代まで続いた深夜ラジオブームをピークに聴取者の「ラジオ離れ」が進み、広告媒体としての存在感を失いつつあります。また近年では成長著しいインターネット広告に大差をつけられており、聴取者を引き付けるコンテンツや仕組みが求められてきました。
ただし、本記事の冒頭に書いた通り、ラジオはネットとの親和性が高く、近年ではネット回線を利用した「radiko」サービスは若年層からも高い好評を得ています。さらにiPhoneなどで聞くことができる「ポッドキャスト」という仕組みも一定の評価を得て、新たな聴取層開拓は徐々に効果を得はじめた途上にあります。
巨大メディアに成長したインターネットを敵にするのではなく、むしろネットとの親和性を活かして新たな媒体としての価値創出に取り組みはじめたラジオは、「耳」という五感に訴えるメディアとして今後も活路を見出していこうとしています。
※参考:新屋哲博・松岡富士夫監修「新版広告ビジネスの基礎講座」
5.【まとめ】ラジオ媒体・ラジオ広告の特徴
TV媒体特徴 | ・ドライバー、若者、主婦などを対象としたセグメント可能なパーソナル媒体 ・時間帯、番組内容によって聴取者が特定されるため、ターゲットを限定した広告展開に適している ・仕事中、勉強中、運転中などに聴取する「ながら視聴」が可能であるため、聴取者の行動状況によって制約を受けずにメッセージを到達させることができる |
接触状況 | ・「ながら視聴」が多いため、受動的に聴取されることが多い ・一過性であるため、メッセージ生命は短い |
出稿条件 | ・クライアント(広告主)の要望が受け入れられやすい ・スポット枠の確保やCM素材の変更が比較的迅速におこなえるため、タイムリーな広告展開が可能 ・CM制作コストが安い |
広告目的 | ・企業、商品、サービスの知名度アップ、維持 ・番組と連動した販促活動の実施 ・地域に密着した広告展開が可能 ・ドライバーの聴取率が高いため、自動車関連広告に適している |
広告効果 | ・即効性に優れている ・リーチを広げるのが難しい ・フリークエンシーを獲得することが容易である ・抽象的な内容の訴求に適している ・広告効果は、放送時間帯、番組内容、裏番組などの影響も受ける ・広告効果が測定しにくい |