広告代理店のテレビ局担当(局担)-テレビの特徴、仕事内容、働き方

私たちが日ごろから目にするテレビに映っているCMも広告代理店の仕事の一つです。では具体的には広告代理店のテレビ局担当(局担)とはどんな仕事内容なのでしょうか?
結論から言うと、代理店・局担の仕事は、クライアントの広告要件に沿って、適切なテレビと広告枠を選択することです。

ここでは広告代理店における媒体としての「テレビ」の特徴、テレビの種類、そしてテレビの広告枠なども含めて、局担の仕事内容について詳しく解説していきます。

1.そもそも広告代理店における媒体(メディア)とは?

広告代理店といえばTVコマーシャルなどを手掛け非常に華やかなイメージがある一方で、(主に営業の仕事を指して)「激務」、「きつい仕事」というイメージが強い方も多くいるかと思います。

当たり前のことですが、広告代理店の仕事は営業だけではありません。広告代理店の大きな役割は、①広告内容の制作、②広告の伝達ということです。そして広告を伝達する重要な手段として媒体(メディア)への掲載があります。

メディアには、「マスメディア(4マス)」と言われるテレビ、新聞、雑誌、ラジオに加えて、OOH(交通・屋外広告)や最近急拡大しているインターネット広告などがあります。今回は広告代理店における「テレビ」というメディアに焦点を当て、テレビの特徴などを含めて仕事内容を解説していきます。

通常版

2.代理店にとって「テレビ」ってどんなメディア?


TVは4大マスメディアの筆頭として、現在でも最も影響力のある広告媒体の一つですが、実際のテレビコマーシャルはどのような種類や料金なのでしょうか?その疑問に答えるためにも、そもそも媒体としての「テレビ」を詳しく紐解いていきましょう。

(1)メディアとしてのテレビの特徴

広告代理店への就職・転職を望む方であれば皆さん当然お分かりかと思いますが、テレビは消費者(生活者)との接触が最も高いメディアです。
例えば1世帯あたりのテレビ保有台数は約2.2台(2016年 内閣府「家計消費の動向」より)、1日当たりのテレビ接触時間は平日3時間18分、土曜3時間37分(NHK放送文化研究所 「国民生活時間調査」より)となっています。

このため広範囲で、とても多くの視聴者に同時にメッセージを届けることが可能です。また、映像と音声という五感のうち2つで伝えることにより強いインパクトで、分かりやすく情報を伝達することが可能です。これらにより企業・商品・サービスの認知向上や、情緒的なイメージの醸成、話題喚起などに優れています。さらに常に視聴率を測定しているため、広告効果を測定することも可能です。

こうした特徴を背景に、テレビ媒体は新商品発売が活発な食品・飲食・消費材などの業種で特によく用いられるのです。

(2)テレビの種別

テレビ局は発信する周波数帯によって、VHF局(90~222MHz)とUHF局(590~770MHz)に分類されます。古い話になりますが、1967年10月以降に開局したテレビ局にはUHF波が割り当てられたため、歴史的にはVHF局が古くUHF局は後発です。しかし放送エリアが同じであれば媒体価値には差がありません。

また、番組を放送する機能に加えて、番組を制作する機能を持ち、(例えば外注であっても)自局で制作した番組を系列局に提供する曲を、「キー局」と呼びます。

たとえばTBSテレビが番組を制作し、系列局に提供したときには、TBSテレビをその番組の「キー局」といい、関西の読売テレビが番組を制作した時には読売テレビをその番組の「キー局」と呼びます。キー局となるのは、おおむね東京・大阪・名古屋などの大都市に存在するテレビ局です。

そして在京キー局を中心に、全国のテレビ局が5つの系列(ネットワーク)に分かれています。その他にも、系列に属さない独立局が大都市にはあります。

①JNN(Japan News Network):TBS系列
②NNN(Nippon News Network):日本テレビ系列
③FNS(Fuji Network System):フジテレビ系列
④ANN(All Nippon News Network):テレビ朝日系列
⑤TXN(TX Network):テレビ東京系列

(3)テレビのサーキュレーション

聞きなれない言葉かもしれませんが「サーキュレーション」とは媒体(メディア)が消費者に接触(アプローチ)できる見込み人数を意味します。テレビ媒体においては、放送エリア内の世帯数および人口によって計測されています。

例えば、日本テレビ、TBSテレビ、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の放送エリアは、東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬および山梨・静岡の一部で、エリア内世帯数はおよそ1,700万世帯程度です(日本広告主協会「民放テレビ局エリア調査」より)。

(4)テレビCMの種類


テレビCM(Commercial Message)は以下のように分類されています。

①番組提供CM

番組を提供しているスポンサーが、番組の提供時間内に挿入するコマーシャルです、「タイム」と呼ばれています。タイムは、放送エリアによってさらに二つに分けられます。
(a)ネット番組提供:番組を提供した時、全国ネットでCMを放送することをいいます。ネットする局数は番組によって異なります。
(b)ローカル番組提供:番組を提供したとき、各局エリア内でのみCMを放送することをいいます。

なお、番組提供CMでは、1本のCMの長さ(尺)は30秒が基本です。また、単独提供の場合では60秒CM、長時間の特別番組の場合では120秒以上のCMも放送可能です。

②スポットCM

番組提供によらないTVCMを指して「スポット」と呼びます。スポットCMは、各局単位のローカル出稿が基本です。スポットでは、CMの長さは基本的には15秒ですが、30秒CMも出稿可能です。スポットはさらに以下のように2つに分けられています。

(a)ステーション・ブレイク(ステブレ、SB)

番組に関係なく、番組と番組の間に放送されるCMをステーション・ブレイクといいます。

(b)パーティシペーティング(PT)

番組提供はしていないものの、番組時間内に放送されるCMをパーティシペーティングといいます。このうち、番組時間内ではあるが、番組開始時の提供クレジット前に放送されるCMをカウキャッチャー(CC)、番組終了時の提供クレジット後に放送されるCMをヒッチハイク(HH)といいます。

(5)テレビ媒体の料金

テレビCM料金は、おもにエリア内世帯数(あるいは人口)とタイムクラスによって正規料金が決められています。タイムクラスとは、総世帯視聴率の高低による放送時間帯の区分をいい、A・特B・B・Cの4つのクラスに分けられます。

このうち特に、19~23時を「プライムタイム」、最も総世帯視聴率が高くなる19~22時を「ゴールデンタイム」と呼んでいます。
そして、世帯数や人口・タイムクラスに加えて各局の視聴率・営業力・広告主の当該局への過去貢献度、需給関係などによって、実際の料金は決定されます。

①タイムCMの広告料金

タイムの場合、番組スポンサーは電波料と番組制作費を負担します。系列局にネットする場合には、さらに送り出し諸経費、回線基本料、回線料、受け取り諸経費を負担します。このように、番組はすべてスポンサーが負担するお金によって全国に放送されています。

例えば日本テレビ・TBSテレビ・フジテレビ系列のいずれかを用いて、ゴールデンタイムにおいて全国フルネットの番組を提供し、30秒CMを1回出稿する場合、その料金は月あたりおよそ3,000~4,000万程度となります。ただし、上述の通り、視聴率や需給関係などの影響を受けるため料金はかなり上下します。同一番組で異なるタイムクラスにまたがる場合には、料金の高い区分が適用されます。
なお、番組の提供期間は6か月(26週、これを2クールと呼びます)が基本です。

②スポットCMの広告料金

スポットの場合、広告料金は需給関係と視聴率によって決定され大きく変動します。すなわちスポットの引き合いが多い好況期・繁忙期(関東地区では3~7月、10~12月)の広告料金は高く、逆に引き合いの少ない不況期・閑散期(関東地区では8~9月、1~2月)の料金は低くなる傾向があります。

スポットCMの広告枠取り(広告代理店がTV局と交渉し、スポンサーが望むスポット放送時間をおさえること)に際して、視聴率が高く人気のあるAタイムだけをとることは難しいです。そのため各タイムクラスをセットで購入することが業界の慣習となっています。

またスポットの場合、媒体料金は出稿するCMの本数ではなく、出稿によって得られるであろうGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)を基準として計算されます。例えば2017年4月に、日本テレビを用いて全日型で1,000GRPのCM(出稿されたCMの視聴率を合計すると1,000%)を出稿しようとする場合、その料金は1GRP当たりの単価65,000円×1,000GRP=6,500万となります。

大手版

3.テレビ局担当(局担)の仕事


ではここから広告代理店における媒体部のテレビ局担当(局担)が行う仕事内容について具体的に解説します。代理店の局担に配属された場合、下記のような手順でテレビCMの放送に向けて準備していきます。

(1)タイムCMの場合

番組を提供するには、その時間帯から既存スポンサーが提供を降りる必要があります。そのため希望する番組に必ず提供を行えるとは限りません。

提供の空き枠が明らかになってくる番組改編期(4月、10月)の2か月前くらいから、枠取り作業が始まります。一般的には、料金などの条件が合わないところから、枠取りの作業が始まることに加え、限られた提供枠をめぐって広告主間の調整も必要となるため、決定までには時間がかかります。

(2)スポットCMの場合

スポットCMの場合、発注が早く、料金さえ折り合えば、希望する広告枠を取ることは可能です。
まず、発注は放送の1か月前くらいまでに行う必要があります。次に放送日を含まない3~4日前までにCM素材を局に搬入します。最後に放送したことを証明する放送確認書をTV局から受け取り、一連のスポットCM出稿作業は完了します。

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4.テレビ局担当(局担)の働き方とホントのところ

結論から言うと、テレビ局担当いわゆる「局担」は、広告代理店の中でも一、二を争うほどの体育会の風土が残る役職です。そしてテレビ局という広告代理店にとって非常に重要な媒体社との調整・パイプ役です。その働き方は、平成の世にして過酷、ハードです。

これまで広告代理店の発展を支えてきたのは「メディアの王様」と呼ばれてきたテレビによる利益によるところが大きく、テレビなくして現在の広告代理店の存在はあり得ません。新聞の広告枠取次ぎに端を発する広告代理店の歴史上、テレビ以上に儲かる媒体はなく、新聞社・雑誌社、ラジオのどの媒体もテレビの代わりにはなりませんでした。

日本人の多くが、朝は家族全員でニュース、昼はお母さんが笑っていいともにワイドショー、夕方は子供たちがアニメ、夜はお父さんが野球中継、といったテレビありきの生活習慣を過ぎしてきたお陰で、テレビは「メディアの王様」としての地位を確立し、そこに対する広告(TVCM)にも莫大のお金が流れてきました。

現在ではインターネット等に押され、その売上・利益も減少傾向にありますが、そもそも広告代理店の利益の大部分は、このテレビCM出稿に伴うスポンサー・媒体社(テレビ局)両社からのバックマージンです。

代理店社内の営業と共にスポンサーの利益も代弁し、そして媒体側(テレビ局)の利益も代弁する、それが局担の腕の見せ所です。そのために局担は、普段から媒体社との仲を深めるための活動を行います。それは飲み会であり、時にはゴルフ大会であり、たまに親睦旅行だったりします。

もちろん多忙なテレビ局と代理店にとって飲み会が深夜からスタートするのは日常茶飯事であり、基本的には平成の世に似つかわしくないほどの上下関係の厳しさが存在します。つまり体力的にも、精神的にも非常にハードな働き方が求められる重要な仕事なのです。

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5.テレビそしてテレビ広告の将来

テレビそしてテレビ広告は戦後長らく娯楽・メディアの王様として君臨し続けてきました。例えば古くは小学館・小学一年生「ピッカピカの一年生」、金鳥ゴン「亭主元気で留守がいい」、そしてセブンイレブン「セブン・イレブン、いい気分」や日清食品カップヌードル「hungry?」などは世代を問わず多くの人の記憶に残っているテレビCMです。

これらのコマーシャルは単なる広告という枠を超え、キャッチコピーやシナリオ、そしてメッセージ性が強いものです。

このように目と耳に訴える影響力の非常に強いメディアとしてテレビは利用され、多くの人や家族がテレビの前に釘付けになってきました。

朝はテレビニュースで最新情報を仕入れ、昼にはワイドショーで主婦の好奇心を掻き立て、夕方には学校から帰宅した子供たちがアニメにくぎ付けになり、夜は会社から帰ったお父さんがビール片手に野球観戦をする、という日常の光景が日本中で何十年も繰り返されてきました。

しかし、この光景を大きく変えた要因の一つがインターネットでした。インターネットによってスマートフォン(スマホ)も登場し、家族一人ひとりの興味や関心に個別に対応できるようになりました。

たとえ夜にお父さんが野球中継をテレビで見ていても、お母さんは先週放送した話題のドラマを民放動画ポータルサイトを閲覧し、子供たちはユーチューバー(Youtuber)たちに夢中になる、といったように一人ひとりが自分の好きな番組やサイトを見ることができるようになったのです。

実際に、NHK放送文化研究所が実施している「国民生活時間調査」でも、5年前に比べても若者を中心にテレビ離れが進んでおり、動画やインターネットの利用が広がっているという調査結果が明らかになっています。1日の中でネットにかける時間は10代で18分から51分に3倍近く増え、女性でも16分から36分へと増加。それに対してテレビの視聴時間は30分強減っているのです。

これからテレビが辿るであろう未来は、インターネットという存在なしでは語れないと考えています。テレビとインターネットの境界線上がどんどんなくなっていき、近い将来ネットを通じて、今でいうところのテレビ番組を閲覧する時代が必ずやってくるのではないかと思えます。

その意味で現在、テレビ朝日がサイバーエージェントと提携しておこなっているAbemaTVは未来のテレビの姿を暗示するような先進的な取り組みとなっています。

さらには2017年からJリーグ放送権を英国ネット配信企業・パフォームグループが2,100億円で取得したことによってJリーグの試合はネットで閲覧する方式に変更されました。このようにテレビ業界もネットと不可分の世界に突入していくものだと思います。

6.まとめ

いかがだったでしょうか?
広告代理店におけるテレビという媒体は、全国広いエリアの視聴者に繰り返しメッセージを配信することができるメディアだとわかりました。
さらに圧倒的な訴求力によって企業・新商品・サービスなどの知名度・認知度向上に特に適している媒体でもありますが、今後メディアとしてネットの存在が無視できなくなっていくものだと考えられます。

※記事参考:新屋哲博・松岡富士夫監修「新版広告ビジネスの基礎講座」

7.【時間がない人向け】テレビ媒体、テレビCMの特性まとめ

TV媒体特徴・テレビ普及率は99%、世帯当たり保有台数は約2台と、テレビ媒体は非常に普及している
・広い範囲の視聴者に、繰り返しメッセージを到達することができる
・特にスポット広告の場合、ターゲットを絞ることは難しい
・全国的な広告展開、特定地域向け広告展開がともに可能
・長期間にわたる広告展開、特定期間における広告展開ともに効果が期待できる
接触状況・1日あたりの視聴時間は若者を中心に下落傾向ではあるものの、平均約3時間と相変わらず接触時間が長い
・視聴者が画面を注視しているので、広告の注目率が高いと考えられる
・一過性であるため、メッセージとしての期間は短い
出稿条件・スポットCMの場合、出稿地域、曜日、時間帯、期間、出稿量などが柔軟に選択可能
・タイムCMの場合、自由に提供枠を確保することは難しい
・スポット枠の確保やCM素材の変更がすばやく行えるため、タイムリーな広告展開が可能
・CM制作費用が他のメディアに比べて高く、制作期間も長い
広告目的・企業、商品、サービスの知名度向上およびブランディングなどに適している
・短期間に広告効果を上げることが可能
・新商品発売やキャンペーン、イベント開催など告知に用いられることが多い
・企業、商品、サービスのイメージ醸成(ブランド形成)に適している
・長期間にわたり番組を提供することにより、「企業の顔」としてのイメージ形成も可能
広告効果・多くの広告リーチ、フリークエンシーを獲得することができる
・五感の2つ目と耳に訴えることができるため、強いインパクトを残すことが可能
・受動的に接触されるため、潜在意識に訴えることができる
・集中的な広告出稿により、即効性が期待できる
・知名度向上に大きな効果がある
・企業イメージや商品イメージの醸成、話題作りに適している
・映像や音声を通じて、商品・サービスを具体的に分かりやすく伝達できる
・世帯視聴が多いため、世帯内の同調意識を促進できる
・番組やキャラクターと連携した広告展開が可能
・毎分単位で世帯視聴率を測定しているため、広告効果の測定ができる
・広告効果は、放送時間帯、番組内容、裏番組にも影響を受ける
                     

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私は有名な大手2社ではありませんが、国内上位5社に入る広告代理店で営業(アカウントエグゼクティブ)として3年前まで働いていました。その経験から、あまり世の中では語られていない広告代理店の具体的な仕事内容や実際の過酷さについて正直な記事を書いていきます。