広告代理店や広告業界を志す方にとって、TVCMをはじめとしたCM制作に興味ない人は居ないのではないでしょうか?
ここではCMがどのような人たちによって、どのような流れで作られていくのか、詳しく解説していきます。
目次
1.スポンサー(クライアント)による広告の計画
広告は、まず広告主(スポンサー/クライアント)が「誰に、何を、どのように伝えたいか」という要望からスタートします。
企業において新商品、新サービスが開発されると、続いてマーケティング活動を軸に販売促進戦略が練られ、さらに広告戦略が検討されることになります。
マーケティング活動を機能的に分解すると、以下のような仕事があります。
(a)製品(サービス)計画
(b)市場調査、需要予測
(c)販売組織、流通経路
(d)価格政策
(e)販売地域計画
(f)広告
(g)その他
広告活動は新製品(新サービス)の宣伝・告知だけなく、企業のイメージを向上させたり、イベントやセールの告知をしたり、ブランドイメージを構築したりと様々な役割を持っています。
また、広告主も一般企業から公共団体、政府機関と様々いますが、何よりもまずは広告主が広告展開のスタートを切ることになるのです。
2.広告代理店による広告の企画
一般的に広告主(スポンサー/クライアント)は広告代理店に広告計画の業務を委託します。広告主が広告代理店を選定するにあたっては、特定の広告代理店と契約を結んで全面的に委託する場合もありますし、複数の広告代理店に広告計画を競合させる場合もあります。競合させることになると、そこにはコンペが発生します。
新製品(新サービス)の発表などの際は、多くの場合「代理店競合(コンペ)」となります。その場合の広告代理店の争いは激しいものがあります。なぜならコンペの際は、CM制作費だけでなく、あらゆる媒体(メディア)の扱いが含まれる億単位のビジネスになるためです。特にテレビなど電波媒体の取り扱い高は大きいのです。
広告代理店の営業担当は、クライアントの要望を的確に把握し、マーケティング、クリエイティブ、SP、媒体、PRなどの専門スタッフからなるプロジェクトチームを編成します。
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マーケティング部門は市場調査に基づき、対象となる消費者の詳しい分析を行います。年齢、性別、職業、年収、生活水準、購買習慣などを調査し、広告商品にもっともふさわしいマーケティング戦略を立案します。
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テレビCMや新聞広告などは広告代理店のクリエイティブディレクターを中心に進めます。クリエイティブディレクター(CD)が中心となって、主に言葉(コピー)を担当するコピーライター、映像含め視覚表現を担当するアートディレクター、テレビ・ラジオなどのCMを企画するCMプランナーなどのクリエイティブチームも編成されます。
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SP(プロモーション)担当は、プレミアムキャンペーンやセールスコンテストなど、販売促進の仕組みを企画し、ポスターやチラシなどPOPも用意します。
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媒体(メディア)担当は、ターゲットの媒体接触特性をもとに、広告メッセージが最も効果的にターゲットに到達する媒体の組み合わせ、つまりメディアプランを策定します。媒体費は広告物制作とは比較にならないほど高額になるため、到達率の検証など調査が行われるケースが多いです。
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製品やサービスそして、クライアントの意向にもよりますが、それらのメッセージをタレントや著名人を起用して展開する場合にはキャスティング計画も立て、それらがまとまった段階でクライアントへのプレゼンを行うのです。たとえ競合の代理店がいなくてもプレゼン自体は行います。
クリエイティブエージェンシー
2000年直前に起きた広告ビッグバンの影響もあり、近年では「メディア」と「クリエイティブ」が分離する形態も増えました。欧米のように、媒体は媒体を扱う代理店、CMの企画制作はクリエイティブエージェンシー、といった役割分担も一般的になりつつあります。
元電通CDの岡康道氏が設立した「TUGBOAT」、同じく元電通CDの佐々木宏氏などが設立した「シンガタ」、元博報堂CD箭内道彦氏の「風とロック」、さらには一時の経営難からよみがえった「TYO」などがクリエイティブエージェンシーの代表例です。
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3.制作会社によるCM制作
それでは広告代理店が受注したクライアントのCM案件は、具体的にはどのように作られていくのでしょうか?ここでは広告代理店と制作会社の関わり合いも含めて、詳しいCM制作について解説していきます。
(1)制作の開始
以前は企画が決定したところで制作会社を選定していましたが、近年ではプレゼン前の企画作業から制作会社のスタッフが参加するケースが一般的になっています。なぜならプレゼンがより高度かつ緻密になっており、プレゼンする際にも企画内容の細かさが求められているからです。
制作会社の多くはプロデューサーシステムになっています。プロデューサーは広告代理店との窓口で、制作会社スタッフのリーダーです。そしてこのプロデューサーの質が作品の出来に大きく影響してきます。
制作会社のプロデューサーは、日ごろから広告代理店のクリエイティブ担当と接触していて、担当クリエイティブディレクターやプランナーの意図を汲み取れるようにしています。
制作会社のスタッフがクライアント/スポンサーと直接やり取りする機会は殆どありません。広告代理店のクリエイティブ担当と制作スタッフの総責任者であるプロデューサーの指示が全てです。この二者の指示によって制作作業が進められていきます。
もちろん代理店のクリエイティブ担当と、制作会社のプロデューサーの意思疎通がCM制作を左右するため、広告代理店のクリエイターにとってプロデューサー選びは非常に重要です。
プロデューサーには、クリエイティビティ、組織統率力、管理能力が求められます。
制作会社の規模にもよりますが、プロデューサーを中心に、演出家や企画部門、CG制作室など制作体制を整えている制作会社もあれば、プロデューサー数名とプロダクションマネージャー数名のみの制作会社もあります。
ただし小規模だからといって良い作品が作れない訳でもなく、大規模だからといって良い作品が作れる訳でもないため、広告代理店のクリエイターは相性が合う優秀な制作会社を探し、選ぶのです。
(2)スタッフ編成と制作準備
プロデューサーは、広告代理店のクリエイティブ担当(CD、プランナー)に尋ね、まず演出家(ディレクター)を選出します。続いてプロデューサーはディレクターと相談しながら、カメラマンやライトマン、美術デザイナーといったメインスタッフを固めていきます。
こうしたスタッフはフリーランスの人が多く、撮影前の準備は作品の出来を左右しますので、スタッフ間の打合せは何回も綿密に行われます。
撮影はスタジオあり、ロケーションありで、それぞれにスタッフの編成が異なります。もちろん機材も異なり、その規模は内容によって大きく変わります。また、CM制作は撮影がすべてではありません。どんな作品に仕上げるかとなると、編集時の手法や手順を考慮して素材作りをしなければなりません。
これまでの撮影では35mmフィルムがメインでしたが、最近ではデジタルも主流となってきており、シューティング(撮影)前からテクニカルアドバイザーが参加することも一般的です。
クリエイティブは、人間の思考力や感性と同時に「表現技法」が伴わなければ成立しません。新しい技術、新しい機器をどう取り入れていくか、常に挑戦が求めれます。
(3)撮影(シューティング)
撮影は大別して「スタジオ撮影」、「ロケーション撮影」、「ロケセット撮影」の3つに分けられます。
①スタジオ撮影
大きなセットを組むような場合は、主に映画の撮影所を使用し、商品回りだけの小規模な場合は、スチール撮影用の比較的小さなスタジオを使用します。
スタジオ撮影の大きなポイントは、「大道具」とも言われる美術です。基本的には映画の美術製作者が作ります。そのセットデザインは、映画の美術監督の他に、CM専門のデザイナーが担当します。
②ロケーション撮影
ロケーションには、国内、海外とあり、スタッフ構成も、機材の手配も全く異なります。いずれの場合も、屋外で撮影するわけであり、天候が大きく左右します。あらゆる手配も、リスクも天候・天気次第となります。プロデューサーを最も悩ますのはこの天気だったります。
近年では、海外撮影で現地の制作プロダクションやスタッフを起用する場合も増えています。グローバルな考えをすると、質的にも、コスト的にもその方が合理的である場合も多いです。例えば、毎年正月恒例で放映されているウルトラマンダッシュという番組において、2017年に清武選手がスペインでの挑戦したキックターゲットでは海外の制作スタッフが関わっていました。
③ロケセット撮影
ロケセットを選ぶ基準は2つあります。一つは経費削減を考えた時、もう一つは、そこでなければならない時です。いずれにしても借り物ですので、気を使います。
4.ポストプロダクション
「ポストプロダクション」という言葉を初めて聞いた人も多いかと思いますが、撮影終了後の仕上げ作業を広告業界では「ポストプロダクション」と呼びます。
撮影された素材、CGで作られた素材、アニメーションの素材、タイトル素材など、様々な素材を組み合わせて1本のCMにまとめあげていく作業です。また、映像だけでなく、音声作業もあります。音楽やSE(効果音)、そしてナレーションも含めてMA(録音)作業と呼んでいます。
仕上げ作業の手順は、まず仮編集(オフライン編集)を行い、スポンサー(クライアント)や広告代理店で検討した結果、本編集(オンライン編集)、最後にMA作業を行って原版を完成させます。
このポストプロダクション作業を行う場所には、大変高価な音響機器やデジタル機材、編集システムなどを備えているため、通常の制作会社ではこれらの設備を備えておらず、専門の「ポストプロダクション」にて最後のオンライン編集を行います。
ポストプロダクションは、近年、画像の後処理や画面をつなぐ編集室といったポジションから、全く新しい画像を創造できる映像クリエイトの場として見直されてきています。
また、CGやアニメーションなども、独立した画像生成の手段ではなく、デジタル編集機能を共有することによって、従来なかった高度な映像を創り出すことが可能となりました。
ポストプロダクションは、「ポスト(後処理)」ではなく、画像生成の中心的立場にも成り得、逆に撮影が素材作りという位置づけにもなる、という現象も今後はあるでしょう。
5.まとめ
いかがだったでしょうか?
CM制作は、広告主(スポンサー/クライアント)のマーケティング活動の一環からスタートし、それを受けた広告代理店や広告会社が企画し、コンペ、そしてプレゼンを繰り返してその制作権がどこになるのかが決定します。
さらにコンペを勝ち取った広告代理店は、企画内容をもとに制作会社に具体的なCM制作を依頼し、スッタフ編成とともに制作準備が進んでいくことになります。
スタジオやロケーションでの撮影などを経て、最終的には映像・音声も含めたポストプロダクションによって、ようやくCM作品が世に出される状態にまで仕上がっていきます。
このように、普段私たちがテレビなどで何気なく眺めているCMには、これだけの会社や人が関わり、真剣にターゲットの消費者のことを考え、面倒くさい作業をいくつも経て映像や音声が仕上がっていくのです。社会を代表する言葉がCMから生まれるのも、CMをきっかけにブレークするタレントが出てくるのも、CMに関わる人たちの真摯でひたむきな仕事に掛かっているのです。