「2016年 日本の広告費」 をグラフでわかりやすく解説!

日本最大の広告代理店である電通では毎年、広告費に関する統計を発表しています。それが「日本の広告費」という資料です。今回は、これまでの推移も含め、各媒体の広告費、業種別ランキングなどを、分かりやすく解説してみようと思います!

1.2016年における広告費の概要

結論としては、2016年の広告費合計は6兆2,880億円で、前年比で101.9%でした。

実は日本の広告費は2012年以降、5年連続のプラス成長となっており、日本経済の緩やかな景気拡大の影響も受けているものと思われます。

媒体別の傾向では、新聞や雑誌といったトラディショナルなメディアの広告費は減少し続けていますが、逆にラジオ、テレビは前年より広告費が増加するなど好調でした。さらにはインターネットの広告費は伸び続けており、媒体費が初の1兆円の大台にも達し、この傾向はさらに続くと予想されます。

通常版

2.広告費の業種別ランキング

まず、2016年に日本国内の広告が、どの業界(業種)で実施されたのか、分かりやすく表とランキング形式で紹介します。

(1) 1位:化粧品・トイレタリー(2,884億5千万円)


「化粧品・トイレタリー」に分類されるのは、スキンケア、化粧品、シャンプー・トリートメント、洗剤、生理用品、紙おむつなどの商品です。

女性にとってかかせないスキンケアや化粧品、さらにはインバス商品(シャンプー・トリートメント)の広告は常に多く出稿されており、テレビでもこれらのCMを見ない日はないと思います。

化粧品・トイレタリーは、商品の認知度やブランドが購買を大きく左右する要素と言われており、具体的な商品の広告はもちろん、高級化粧品に代表されるブランディングを目的とした広告も多く出稿されています。

(2) 2位:情報・通信(2,840億1千万円)


「情報・通信」に分類されるのは、スマホ、PC、ネット、Webサービス、ゲームなどの商品・サービスです。

近年特に広告費が伸びているのが、この「情報・通信」の業種です。その原因はスマホのオンラインゲームで、最近では「グランブルーファンタジー」、「パズドラ」のようにTVCMとして流すこと珍しくなくなりました。

5年ほど前までは、スマホ内のサービスは主にスマホで展開されていましたが、スマホが一般的になったここ数年では、オンラインゲームやアプリ、ニュースサービス等をテレビや新聞など他のメディアで展開して多くの人の認知度を上げることを目的とした広告が激増しました。

(3) 3位:食品(2,801億2千万円)


「食品」に分類されるのは、食品やサプリメントなどです。

移り変わりの激しい食品業種でも相変わらず広告が多く出稿されています。特に新商品発売といったタイミングでは広告による認知度の向上は必要不可欠です。さらには最近多くなってきているサプリメントなどの栄養補助食品の広告も順調に増えています。

(4) 4位:交通・レジャー(2,078億4千万円)


「交通・レジャー」に分類されるのは、交通機関や旅行・宿泊、スポーツ、レジャー施設、公営レース(例えば競馬など)、映画・コンサート、イベント等です。

3位の食品系業種より800億円ほど広告費は下がりますが、交通・レジャーの業種でも広告は多く出稿されています。新作映画の告知や、ミュージシャンの新曲発売さらには競馬・競輪・競艇などのTVCMは必ず1日に1回は目にするように、これらの分野も認知度が重要な業種です。

(5) 5位:飲料・小売業(1,835億4千万円)


「飲料・小売業」に分類されるのは、アルコール飲料やソフトドリンク、さらにはタバコ等です。

食品と近いですが、飲料・小売業も大量の広告が打たれる業種です。新しいビール・飲料の広告も目にしない日はないのではないでしょうか。

大手版

3.日本の広告費の推移

2016年の広告費については先ほど述べた通りですが、これまでの広告費の推移を振り返ってみたいと思います。まずは下記グラフ「日本の総広告費(2005~2016)」をご覧ください。

上の表の通り、2012年以降、日本の広告費総額は5年連続で増加しています。
そもそも広告業界は、景気全体の影響を強く受けやすい業界です。なぜならば広告活動は、商品の販促活動(売る)という意味では必要不可欠な存在ですが、企業ブランディング等を目的とした広告は常に必要ではない場合もあり、もし企業の収支が悪化している場合は真っ先に広告費が削減されるからです。

つまり日本の広告費全体が5年連続でプラスになったという事の背景には、日本経済全体の景気が悪くないという要因があります。

さらには、これまでの4マスに比べて投資対効果(ROI)が分かりやすい、インターネットメディアが発展した為、広告・プロモーションにより予算を掛けやすくなったという側面もあります。

例えば、これまでテレビや新聞に広告を出稿しても、実際広告が販売に対してどのくらいの貢献したのか見えづらい事が課題の一つでした。しかしインターネット上の広告媒体の場合、販売に結び付いた金額はリアルタイムで数値として表示されるため、企業としては広告予算として計上しやすくなりました。

日本経済の景気改善、そしてインターネットメディアの発展、という2つの大きな原因によって日本の広告費は5年連続でプラス成長となりました。

2017年以降に関しては、トランプ大統領の動向、イギリス・フランス・ドイツ等のヨーロッパ主要国の動きなど不確定要素はあるものの、現状の経済状態を見ると広告費の大きな下落はないものと予測されます。

テキスト版

4.各媒体(メディア)の広告費

 新聞雑誌ラジオテレビ4マス制作費インターネットネット制作費OOH等その他合計
2012年6,242億円2,551億円1,246億円1兆8,770億円-6,629億円2,051億円2兆1,424億円5兆8,913億円
2013年6,170億円2,499億円1,243億円1兆9,023億円3,091億円7,203億円2,178億円2兆1,446億円5兆9,762億円
2014年6,057億円2,500億円1,272億円1兆9,564億円3,121億円8,245億円2,274億円2兆1,610億円6兆1,522億円
2015年5,679億円2,443億円1,254億円1兆8,088億円3,068億円9,194億円2,400億円2兆1,417億円6兆1,710億円
2016年5,431億円2,223億円1,285億円1兆9,657億円3,061億円1兆3,100億円2,722億円2兆1,184億円6兆2,880億円

(1)新聞の広告費


2016年度の新聞の広告費は5,431億円でした。
昨年2015年は5,679億円だったので、比較すると95.6%の実績で、4.4%マイナスの計算になります。実は、直近5年だけ見ても新聞の広告費は下落し続けています。5年前2012年には6,242億円だった為、この5年で87%実績、つまり13%も広告費が削減された計算になります。


<グラフ>新聞の広告費(2012~2016年)

広告費が削減される一つの要因は、新聞というメディアそのものの存在感の低下です。つまり単純に新聞を読まない人たちが増えているということです。

これまで新聞は、働いて、生活していくうえで欠かせない情報源の一つでしたが、近年ではスマホの普及によってニュースも無料で手軽に閲覧することができるようになりました。

企業に入社した新社会人に新聞を購読しているかどうか聞いたところ、半数近くが新聞を読んでいないというニュースも話題になりましたが、若者を中心に確実に新聞を読まなくなったことは確かでしょう。

ただし、日本における新聞は、諸外国とは異なり、購読率・宅配率が異常に高く、確実に家に届けられるという特徴がありますし、メディアにおけるオピニオンリーダーである事には変わりはないと思われますので、これらの特徴を活かして、スマホと連携した広告展開などが増えていくことで局面打開もあるのではないかと思われます。

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(2)雑誌の広告費


2016年度の雑誌の広告費は2,223億円でした。
昨年2015年は2,443億円だったので、比較すると91%の実績で、9%マイナスの計算になります。実は、雑誌の広告費は新聞よりも悲惨な状態にあり、ここ12年連続でマイナスとなっています。直近5年だけ見ても、5年前2012年には2,551億円だった為、この5年で87%実績、つまり13%も広告費が削減された計算になります。


<グラフ>雑誌の広告費(2012~2016年)

雑誌の広告費が下落し続けている原因は、新聞と同じように、雑誌購読者が減少し続けていることに大きく関係があります。例えば、少年漫画誌として不動の地位を築き、これまでドラゴンボールやスラムダンク、ワンピースなどを世に送り出してきた「週刊少年ジャンプ」は1995年に654万部という漫画雑誌の最高発行部数をたたき出して以降、減少の一途をたどり、2016年には223万部と約1/3まで減少し、200万部割れは目前とも言われています。

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(3)ラジオの広告費


2016年のラジオの広告費は1,285億円でした。
昨年2015年は1,254億円だったので、比較すると102%の実績となり、2%プラス成長の計算になります。意外かもしれませんが、ラジオの広告費は維持もしくは微増が続いています。直近5年で見てみると、5年前2012年には1,246億円だった為、この5年で103%実績、つまり3%の広告費増という計算になります。


<グラフ>ラジオの広告費(2012~2016年)

では、なぜラジオの広告費は増えたのでしょうか?その原因は、「radiko」というサービスにあります。ラジオはテレビの爆発的普及に伴って影響力が弱くなっていった媒体ですが、2010年「radiko」の本格サービス開始以降、気軽にスマホでラジオが聞けるという便利さや全国のラジオが聞けるという幅広さが受けて人気を取り戻しつつあります。

ちなみに株式会社radikoの筆頭株主は電通(12.4%)で、さらにADKや博報堂などもそれぞれ2.79%保有するなど、ラジオ業界と広告代理店がタッグを組んで、ラジオのメディア回復を図ってきました。

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(4)テレビの広告費


2016年のテレビの広告費は1兆9,657億円でした。
昨年2015年は1兆8,088億円だったので、比較すると109%の実績となり、9%プラス成長の計算になります。直近5年で見てみると、5年前2012年には1兆8,770億円だった為、この5年で105%実績、つまり5%の広告費増という計算になります。


<グラフ>テレビの広告費(2012~2016年)

先ほど「2.日本の広告費の推移」で述べた通り、広告は景気の影響を受けやすい業界です。特にテレビ広告は広告媒体費が高く、景気が悪くなると真っ先に削減の対象となる分野の一つでしょう。このことから日本経済がそこまで悪くはないことを物語っていると思います。

また、時期的な要因として2016年にはブラジルでリオデジャネイロオリンピックが開催されたことも影響しているでしょう。五輪のスポンサー企業を中心に大きくテレビでの広告露出も増え、さらにはテレビにおけるGRPや視聴数が増えるため、スポンサーの広告費も好調だったことが窺えます。

さらには、最近のトレンドとして、ゲーム、アプリサービスを中心としたスマホ・IT企業の積極的なテレビ広告の露出増加も、テレビ広告費の増大に大きな役割を果たしました。

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(5)インターネットの広告費


2016年のインターネットの広告費は1兆3,100億円でした。
昨年2015年は9,194億円だったので、比較すると142%の実績となり、42%プラス成長の計算になります。実はネット広告費が1兆円を超えたのは初めてです。直近5年で見てみると、5年前2012年には6,629億円だった為、この5年で198%実績、つまり約2倍も広告費が増えた計算になります。


<グラフ>インターネットの広告費(2012~2016年)

今さら説明不要かも知れませんが、インターネットそしてスマホの市場は近年ますます大きくなっており、最近の若年層(若者)にはテレビを買わずに、スマホだけ所有する人も増えている状況です。

ニュース・報道といったこれまで新聞が持っていたメディアとしての機能は、スマホから無料で気軽に閲覧できますし、さらには動画、映画といったテレビが持っていた役割もYouTubeに代表される動画サービスによって置き換えられようとしているのは事実です。

さらに、インターネットの広告には、他の4マスにはない広告パフォーマンスの可視化という最大の特徴があります。つまり「この広告が一体どれくらいの売上・利益をもたらしたのか」という、広告業界にとって一種のパンドラの箱を開けたのがネット広告でした。リスティング広告やディスプレイ広告などに代表される運用型ネット広告を用いれば、CPA(成果獲得単価)やROI(投資対効果)も数値で表すことが可能なのです。これこそがインターネットが爆発的に伸び続けている理由の一つでしょう。

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残業版

5.まとめ

いかがだったでしょうか?
日本の広告費総計は、景気の緩やかな回復と共に5年連続で増え続け、2016年は6兆2,880億円となっています。

新聞や雑誌のような紙媒体においては広告費が減り続けるなど厳しい状況ですが、ネット広告費は大きな伸びを示し、テレビ広告費もまずます好調な状況です。

2017年以降は、米国トランプ大統領や、EUのフランス、イギリスなどの国の動きに注目が集まる中、大きな景気の後退が無い限りは、今後もこの流れはある程度継続しそうです。

                     

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私は有名な大手2社ではありませんが、国内上位5社に入る広告代理店で営業(アカウントエグゼクティブ)として3年前まで働いていました。その経験から、あまり世の中では語られていない広告代理店の具体的な仕事内容や実際の過酷さについて正直な記事を書いていきます。